更新日:2017.05.24
執 筆:整体師 佐久間舞
☆原因不明の吐き気や嘔吐と自律神経の関係についてお話しています。
~ 「原因不明の吐き気や嘔吐は、自律神経の乱れが原因だった」vol.2 ~
頻繁な吐き気や嘔吐の症状がありながら、病院の検査では特に異常・原因や疾患が見つからない場合、「神経性嘔吐症」「心因性嘔吐症」(吐き気にとどまるものは「嘔気症」)と診断されることがあります。
これは、環境の変化や仕事など様々なストレスの蓄積から、自律神経が乱れてしまうことによって起こります。前回の表で言うと「精神性嘔吐」という分類に該当します。
ここで言う「自律神経の乱れ」とは主に、交感神経の働きが過剰になり、逆に副交感神経の働きが少なくなることをさしています。
人間の体はストレスがかかると、交感神経を働かせることでそのストレスに対抗しようとします。交感神経が過剰に働くと、「アドレナリン」という抗ストレスホルモンが多く分泌されることによって、不安や焦り、イライラなどを感じやすくなります。
このような体のストレス反応が脳(大脳皮質)への刺激となり、「嘔吐中枢」を刺激して吐き気や嘔吐を引き起こすのです。
ここでもう少し自律神経の働きについて詳しくみていきます。
自律神経がコントロールしている体の機能は多くありますが、ここではとくに吐き気や嘔吐に関わる部分を抜粋します。
交感神経 | 副交感神経 | |
---|---|---|
全体 | 緊張、働く、運動する |
リラックス、休む、眠る |
胃腸の働き | 止まる |
活動する |
胃 | 縮んで硬くなる 胃液が減る |
軟らかくなる 胃液が増える |
小腸・大腸 | 動きが悪くなる |
動きが早くなる |
呼吸 | 浅く早くなる |
深くゆっくりになる |
血管 | 狭くなる |
広がる |
胃腸の働きは、自律神経がコントロールしています。
表に示す通り、交感神経が優位になると、胃腸は動きを止めます。
働いたり活発に動いたりするとき、消化など胃腸の活動は後まわしにされるのです。
自律神経が正常に働いてくれていれば問題ないのですが、本来は副交感神経が働くべき時にも交感神経が働いてしまうと、食事をしても胃腸が十分に働かないため消化不良を起こしたり、ガスがたまったり便秘がちになったりといった胃腸の機能低下が起こります。
これが「嘔吐中枢」を刺激して吐き気につながることもあります。
また、胃は縮んで硬くなると上にあがるという性質があるため、げっぷや膨満感、息苦しさ、ムカつき、胸やけなどの吐き気に似た症状も一緒に現れやすくなります。
試験や人前で話すときなど、緊張を感じているときに、胃がキュッと締まる感じやピクピクする感じを経験したことのある方も多いのではないでしょうか。
胃腸の働きをコントロールしているのが自律神経であるため、ストレスや心の状態は、胃腸の働きと密接に関係しているのです。
自律神経の乱れは、他にも、呼吸を浅くして酸素不足を引き起こしたり、血管を狭くして血流を悪くしたり、全体的に体を緊張状態にします。
酸素不足や血流不足は神経や各臓器への栄養不足につながり、機能を低下させる要因となります。そのため、前述した「嘔吐中枢」への刺激のもとを作りだしやすくなります。
やはり吐き気や嘔吐には自律神経の乱れが深くかかわっているのです。
他にも、吐き気を引き起こしやすいクセというものがあります。
日常的にこのような心のクセがあると、吐き気や嘔吐という症状を引き起こす場合があります。
「言わない」=「言葉が出ないようにする」=「(肩・首・喉などの)筋肉を緊張させることで、言葉が出ないように体を抑えつける」というように、筋肉を緊張させることで、「言わない」という状態を作り出します。
そうすると、常に「出したいものを抑えこんでいる」状態になります。
このように筋肉の緊張が続くと交感神経の働きが活発になるので、吐き気や嘔吐につながる刺激を作りだしやすくなります。
また、言葉そのものを吐き出せない代わりに、「吐く」という行為で代償することがあります。
実際に吐くことで、「出したいものを抑えこむ」ための筋肉が緩んでくれるので、抑えこむことに耐えきれなくなった体の自然な反応とも言えるでしょう。
いずれにせよ、持続する体の緊張や自律神経の乱れは吐き気や嘔吐を引き起こす大きな要因となるのです。
吐き気や嘔吐が続く場合、まずは病院で検査を受けましょう。
以下は、検査でとくに異常が見つからない方向けの対策です。
どのようなものがストレスになっているかを認識し、そのストレスを減らして自律神経を整えていくことが基本となります。
「ストレス」は精神的なものだけではありません。大きくわけて4種類のストレスがあります。
まずは、自分にどのようなストレスがどれくらいかかっているのかを認識しましょう。
そのうえで、それぞれを減らす対策をします。
とくに③の化学的ストレスや④の温度湿度のストレスは「ストレス」として捉えていない方が多いのですが、気づくことができれば自分で対策を講じやすいのではないでしょうか。
また、②の構造的ストレスは、筋肉の緊張による血流不足や酸素不足にもつながるため、体の様々な機能の低下や障害を引き起こしやすく、吐き気や嘔吐のもととなる刺激をつくりやすいストレスです。
加えて、体の調子が悪いと、普段は気にならないような小さなことでもストレスとして感じやすかったり、ネガティブな方向に考えてしまったりという傾向が強くなります。体のゆがみや緊張は①の精神的ストレスにも大きく影響してくるのですね。
自分にかかっているストレスが認識できてもなかなか対処できないという方は、専門家に相談してみましょう。
昼間は適度に活動し、しっかりと栄養をとり、夜はぐっすり眠って疲れをとる。
当たり前のようですが、きちんとできているという人は意外に少ないものです。
とくに、寝つけない、途中で起きる、寝てもスッキリしないなど、睡眠の質の低下がみられるようであれば、すでに自律神経の乱れが起きている状態です。先に述べたストレスとあわせて、改めて自分の状態を確認してみましょう。
「吐き気を引き起こしやすいクセ」のところで述べた通り、首肩周りや喉の筋肉の緊張が、言葉を飲み込んだり我慢したりといったクセをさらに助長してしまいます。
このようなクセがある方や首肩周りの筋肉の緊張が続く方には、抑えつけている筋肉を緩めるということが有効です。
整体やマッサージなどで筋肉を直接ほぐすことはもちろん、お風呂で温めて血流を良くする、深呼吸で酸素を取り込むとともに体の余計な緊張を取り除くなど、自分でできることもあります。
また、「咽頭収縮筋」という喉の筋肉を自分で緩める方法があります。簡単に言うと、「吐く手前」の状態にもっていくことです。
自分の指などで舌の根元を押し込むと、「オエッ」という嘔吐反射が起こります。
このとき、すなわち吐く態勢のときに、咽頭収縮筋は緩んでくれるので、意図的に吐くときの状態にもっていくことが有効なのです。
吐くことが目的ではないので、空腹時など、実際に嘔吐の起こりにくいときに行うのが良いでしょう。
吐き気や嘔吐は、不快な上に、実に様々な原因で引き起こされるやっかいな症状です。
しかし、裏を返せば、体は吐き気や嘔吐を起こすことで、体にかかっている負担やストレスがあるということを警告として発してくれているのです。
その警告を決して見逃さず、自分の体にかかるストレスや自律神経の乱れをしっかり認識して対処することが大切です。
参考文献